4月からスタートしたNHKの朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」も早いものであと1週間、5話を残すのみとなりました。この連載も今回が最終話。フィナーレは「すてきなあなたに」についてお伝えしたいと思います。
「すてきなあなたに」は「とと姉ちゃん」で常子さんが始めたエッセイ欄「ちいさな幸せ」のモチーフ。昭和44年に「暮しの手帖」で連載がスタート、今現在も続いているロングランの人気コーナーです。 鎭子さんの著書「『暮しの手帖』とわたし」には、このぺージに託した気持ちが次のように書かれています。 「商品テストも大事だけれど、ほんのちょっとしたことでも、一言声をかけるだけでも、その場を和ませてくれる、ちょっとした心くばり、思いやり。お茶ひとつ、ケーキひとつでも、ひと手間かけるだけで、おいしく、ゆとりのある場になる。スカーフ一枚、ブローチひとつでも、ひと工夫しただけで、美しく、豊かな気持ちになれる……そんなことを伝えるページを作りたかったのです」。 鎭子さんはこのコーナーをとても大事に、心を込めて作り続けました。毎号6〜8本のエッセイを掲載。信頼するジャーナリストや知人たちを中心に寄稿してくださる方々の輪が広がり、楽しみに待つファンも増えていったのです。
「すてきなあなたに」はまさに花森さんと鎭子さんがずっとかかげてきた「さりげない、ささやかな、ごくふつうの日々の暮らしこそが大事」というメッセージを表していました。しかしそれと同時にふたりの、時代が求めているものを見抜く力があってこそかたちになった企画だったと思います。
連載がスタートした昭和44年は日本が高度経済成長に慣れ、さまざまな事件も起き、「豊かさ」が改めて問われる転換期を迎えていました。「暮しの手帖」も創刊100号を迎え、未来に読み継がれる新たな企画を必要としていたのです。
イギリス式の紅茶の淹れ方、不揃いのティーカップの楽しさ、白い器の魅力。始まって間もない頃の「すてきなあなたに」には紅茶にまつわるエピソードがいろいろと取り上げられています。鎭子さんは大の紅茶党。ミルクと砂糖をたっぷり入れた紅茶が大好きでした。
晩年「暮しの手帖社」に鎭子さんを訪ねた時も出してくださったのは紅茶。私が「砂糖はいりません」と伝えると、鎭子さんは「ほんとうに? 遠慮しないでね」と何度も聞き、ご自身はあまーくして飲んでいました。お茶の時間にはいつも銘々皿にのったお菓子が添えられます。
「これおいしいのよ」とすすめてくださるお菓子はどこでも手に入る醤油せんべいや飴玉。ブランド物が出てくるだろうというつまらない予想はさらりと裏切られ、恥じ入ったのが忘れられません。おやつがちんまりとお皿にのっている様子もとてもよくて、ずっと心に残っています。
(田中真理子 文)