「お やつの時間」
昭和31年~32年にかけて『暮しの手帖』に連載された「おやつの時間」は、そのタイトルも、おやつのラインナップも、写真の雰囲気も、探偵が大好きなシリーズです。
メインの材料は、さつまいも、りんご、牛乳、食パン、じゃがいもなど、当時も今も、平凡な面々。毎回揃える食材の品数も少なくてハードルが低いのに、完成するのはちょっとおしゃれな洋風のおやつ。親しみやすくて冒険ができて。探偵を「これ、作ってみたい」という気持ちにいざなうのです。
このシリーズの指導は銀座コロンバンの門倉國彦さん。「とと姉ちゃん」にも登場した「ホットケーキ」のレシピを教えてくださったのと同じ方です。門倉さんが『暮しの手帖』でご指導くださったお菓子はどれもほのぼのとして、やさしい表情。きっと、今風の「かわいい」が通じる方だったに違いありません。
昭和31年刊『暮しの手帖36号』より。写真をクリックして拡大するとレシピが読めます。右ページのプロセス写真に注目。すり鉢でじゃがいもをすりつぶしています。 |
緊 張せずに作れます
今回「おやつの時間」から紹介する「チーズとポテトのパン挟み」は、この連載が始まって以来、いちばん短時間で緊張感なく作れたおやつでした。
ゆでてつぶしたじゃがいもにチーズやハムを加え、それを食パンに挟んで、フライパンで焼けばいいのです。分量もきっかりでなくていい。バターもマヨネーズもなし。なのに、うまっ!
「小さいひとだけでなく、大人のお茶の時間にも、きっとよろこばれそうです」とありますが、焼いたそばからなくなってしまう勢いでした。
材料です。「5ミリ厚さ」はパン屋さんに頼むと切ってくれます。『暮しの手帖36号』の手モデル(たぶん鎭子さん)の手のサイズから、小型食パンと割り出しました。 |
食 パンは5ミリ厚さで
その理由は門倉さんが指定した食パンの薄さにあるとみました。5ミリです。1斤を12枚切りにした、その半分の厚さです。探偵は『暮しの手帖』をはじめて疑い、パン屋さんで半斤は1センチ、もう半斤を5ミリに切ってもらい2パターンの再現に臨みました。その結果、味も食感も見た目も、5ミリの圧倒的勝利だったのです。
フライパンでパンを焼くと、5秒ぐらいでおいしそうな焦げ目がつきます。その段階でパンの厚さが1センチだと、中まで熱くならないし、パンが反り返ってしまいます。5ミリだと、パンはカリッ。じゃがいもはあたたかくフワッ。油も程よくしみてジュワッ。しかも薄いと、とても食べやすいのです。門倉さん、鎭子さん疑ってすみませんでした。
5ミリ食パンならではのおいしさです。焼く時は弱火で。けっこうすぐに焼き色がつきます。 |
す り鉢ですりつぶす
さて、探偵はゆでたじゃがいもをマッシャーでつぶしましたが、昭和31年のレシピではすり鉢を使っています。それを見て、義母のすり鉢を思い出しました。とても大きくてどっしり。それでポテトサラダ、コロッケの具材、くるみ和え、とろろと、いろんな料理を作っていたのです。ちょうど、プロセス写真の1のようにまぜるときはしゃもじも使っていました。すり鉢を使ったものはどれもなめらかな仕上がりでした。義母がこのおやつを作ったら、もっと口当たりがよかっただろうと想像します。